view (of such a beautiful world)

 雨の空港に私たちは佇んでいた。だんだんと風も強まってきて、恐らく飛行機は欠航だろう。この後に待っているあれこれの手続きのことを考えると私は少し憂鬱を深めた。

 「私たち二人とも、ハタチまでに死ねなかったね」

 彼女はそう言って、私の隣に座った。いつの間にかビールを買ってきていて、一思いにそれをぐいと飲み干す。私にも一缶手渡してくれた。どういう巡り合わせか、私たちは誕生日が同じだ。そして今日、揃って二十歳を迎えたところだった。無数に広がる搭乗口はこの雨の中で逆説的に異様な閉塞感を持っていて、どこへも行けない私たちのことを暗に示している様な気がした。

 彼女はあっという間に酔ってしまって、立ち上がると両手を広げてくるくると回り始めた。なんならわりと大きな声で歌も歌い始めた。いつもそうだ、こうやって好きなミュージカル映画に自分を重ねることが、彼女が孤独に対抗するために見出した武器なのだ。サルトル風に言えば「完璧な瞬間」を求めているというやつなのだろう。よく見ると服も髪型も、いつか教えてくれた映画の登場人物に似ている。そう思うと私はなんだか嗜める気にもならずに、立ち上がってしばらく一緒に踊っていた。日々の退屈と、それに付随する憂鬱からの逃避行という計画は、このようにして、なんとなしの失敗に終わった。

 帰りの電車は風雨の影響でいつもより少しゆっくりだったけれど、なんとか二人の部屋まで返ってくることができた。そのころにはもう酔いも冷めていたけれど、荷物を片付けるのは面倒だった。彼女がシャワーから出てくるのを待って、交代で私もさっとシャワーを浴びた。出てくるころには彼女はもう寝ていた。私も早く寝ようと思って、薬をいつもより少し多めに飲んだ。

 

 目を覚ますと、彼女は出て行くところだった。手には昨日からそのままだったスーツケースを持っている。

 「だって、二十までに死ねなかったら、次は二十七まで生きるしかないじゃない、ロックンロールってそういうものでしょう?それまでは好きに生きることにするわ」

 そんな風なことを言っていた気がするが、よく覚えていない。ドアを閉める音が妙に大きかったことだけは耳に残っている。とにかく、私は残されたみたいだ。私は曖昧な頭のままでしばらくドアを眺めていたが、さっきの言葉を思い出そうとしている内に、再びの眠りに落ちて行った。